眼瞼けいれんblepharospasm
症状
眼瞼痙攣は瞬きが上手にできなくなる病気です。
瞬きが上手にできないので眼表面を潤す涙の循環がうまくいきません。そのため、初期にはドライアイとよく似た症状を呈します。目がしょぼしょぼする、まぶしい、痛い、目を閉じている方が楽などの症状です。ドライアイの点眼治療に全く反応しない場合は眼瞼痙攣の可能性があります。また、目が閉じてしまって物にぶつかったことがある人、危ないので運転をやめた人などはドライアイではなく、眼瞼痙攣の可能性が極めて高いといえます。
重症になると、目が閉じてしまって開かないため、無理やり指で瞼を開けるようになります。
検査・治療
瞬目テストを行います。瞬目テストには速瞬テスト・強瞬テスト・軽瞬テストの3種類がありますが、速瞬テストが最も簡便な検査だと思います。なるべく早い瞬きをしてもらうと、眼瞼痙攣では、途中、リズミカルな瞬きができなくなり目が閉じてしまって開かないなどの症状が見られます。
治療の第一選択はボツリヌスA型毒素療法(ボツリヌス注射)になります。美容外科ではしわ取りや小顔に使われています。ボツリヌスA型毒素には筋肉を麻痺させる作用があります。眼瞼痙攣は、目を閉じる筋肉、眼輪筋が働きすぎ、瞼を開けるのが難しくなり、重症になると眼球自体は正常なのに「見えない」機能的失明という状態に陥ります。眼輪筋にボツリヌス注射をすることで、閉瞼の力を弱め、目が開きやすくするのが治療になります。
眼瞼下垂ptosis
眼瞼下垂で最も頻度が高いのは加齢性眼瞼下垂です。加齢と共に筋肉はたるんでくるのですが、瞼を上げる筋肉もたるんできます。通常両目にみられます。一方、片目にだけコンタクトレンズをしていると、片目だけ眼瞼下垂になることがあります。これらは手術でよくなります。
ところが、「ある日急に片目のまぶたが下がった」場合には、必ず精査が必要です。重症筋無力症や動脈瘤など重篤な疾患が原因のことがあります。早期に病院(眼科、内科、脳神経外科)を受診してください。原因により適した病院へ受診していただくこともあります。
神経眼科とはabout neuro-ophthalmology
私たちは、見たいものをさっと目で捉えて見ることができます。
見えるということは、眼球でとらえた視覚情報が頭の視覚中枢に届いているということです。そして、両目が動くということは、頭の中の回路(眼球運動中枢)に異常がなく、目の周りの筋肉(外眼筋)に正しく情報が届いているということです。
これらの経路の中に異常が生じると、眼球は正常でも視力が悪くなったり、視野が欠けたり、ものがダブって見えたり、見え方になんらかの異常が生じます。神経眼科は、眼球だけをみているのではなく、視覚に関する頭の中の回路をみる分野になります。
よくある症状
- 視力低下
視神経の病気では、片眼性に比較的急に見えにくくなります。痛みを伴っている場合は炎症が、痛みが全くない場合は視神経を栄養する細い血管が詰まった可能性があります。 - 視野欠損
片目の場合は視神経の病気、両目の場合は頭の中の病気が疑われます。右目の視神経と左目の視神経は頭の中で交差します。視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→視覚中枢という経路を経て視覚情報が頭に届きます。視交叉以降の病変では両眼に視力や視野に異常をきたします。 - 複視
「片目で見たらひとつ、両目で見たらふたつ」に見える場合を複視と言います。ふらふらする、めまいがある場合は内科を受診してください。ものが傾いて見える回旋斜視や上下斜視は、目の位置はズレているのですが、外観上斜視には見えないのが特徴です。
これらの疾患では頭部MRIが必要です。医師が緊急性があると判断した場合は速やかに中枢病院を受診していただきます。
よくある疾患
- 視神経炎
視神経に炎症が生じて視力が下がります。視神経だけではなく、他の脳神経に炎症が生じることもありますし、脊髄炎を合併することもあります。急性期治療が極めて重要ですので、MRIで視神経炎と診断できた場合は、地域の中枢病院で治療を受けて頂きます。MRIで視神経炎と診断するところまでは当院で行います。 - 虚血性視神経症
視神経を栄養する血管が詰まって視神経が障害をうける病気です。痛みもなく急におこったときは非動脈炎性が、激しい痛みを伴った場合は動脈炎性です。動脈炎性は緊急疾患です。治療が遅れると両眼性になります。
非動脈炎性には確立された治療法はないため放置されることもありますが、個人的には血管を広げる点滴治療はした方が良いと考えています。ご希望があれば当院で施行します。
細い血管の中をドロドロした血が流れると詰まり易いため、糖尿病や高脂血症、高血圧が危険因子です。反対の目にも発症しやすいので注意が必要です。 - 緑内障
緑内障は慢性の虚血性視神経症とも考えられる疾患です。本邦の失明原因のトップ3に入ります。頻度が高く(20人に1人)40歳を過ぎたら検診が必要です。視力や視野で自覚症状があるようではかなり進行しています。検診で発見し早期治療で目を守りましょう。
当院は緑内障手術は行いませんので、何らかの手術治療が必要と判断した場合には、緑内障専門医をご紹介いたします。理想は、緑内障専門医を必要としないレベルで経過することです。 - 眼運動神経麻痺
目の周りの6本の筋肉(外眼筋)は神経に支配されています。動眼神経、滑車神経、外転神経をまとめて眼運動神経と呼びます。これらの神経が麻痺すると、外眼筋のバランスが崩れて斜視になり、ものがダブって見えます。これらの神経は頭の中を走行していますので、脳腫瘍や動脈瘤、脱髄など重篤な疾患が原因のこともあります。最も頻度が高いのは神経を栄養する血管が詰まるケースです。この場合は自然に8割の方が良くなります。 - 甲状腺眼症
バセドウ病や橋本病などの甲状腺の病気があり、目が前に出てきたり、ビックリしたような見開いた瞼になったり、斜視になったり、視力が悪くなったりすることがあります。目の症状から甲状腺機能異常が見つかることもあります。炎症期と非炎症期で治療法が異なります。 - 重症筋無力症
筋肉の力が弱くなる病気です。神経から筋肉へ指令が届くのを邪魔する自己抗体が原因です。
瞼を上げる筋肉はとても小さい筋肉ですので最も標的となりやすく、障害を受けるとまぶたが下がります(眼瞼下垂)。次いで外眼筋が麻痺する斜視が多く、眼筋型筋無力症と呼ばれます。大きな筋肉に生じると、歩けない、書けない、最悪、呼吸ができないなどの全身型筋無力症になります。
眼筋型のうちに治療を開始し、全身型への移行を防ぐことが重要です。